ふく百話（９９）
「総合市場への夢」
毎回、百話について感想を返信して下さる方がおられます。読者の反応が創作意欲につながるのでありがたいことです。ただし、直接の業界関係者からの感想は少ないです。提案に対するご意見はあるでしょうが、立場の違いで意見表明しにくいこともあるでしょう。前回９８話について、元業界関係者や恩師の先生から専門的な感想が届きました。元業界関係者、この問題は大変重く受け止めた。
難しい問題だが重要なことだ。もう一人の先輩、話は分かるが今の業界でこの問題が解決できる人材はいるだろうか。恩師、ホールディングの話は良いと思うので、この提案を市長に伝え応援してもらうべきだ。いろいろとありがとうございます。
北海道のフグで続報です。４月１５日の新聞折り込みチラシに九州・山口の皆様へというのがありました。なんと「北海道の真ふぐ入り１４点特産品セット」９９８０円とあります。記事には北海道が「ふぐ」漁獲量日本一です。北海道で獲れおいしく一夜干しに加工された「真ふぐ」。北海道民も知らない絶品特産品。
とらふぐより甘みが強く、あっさりとした味わいで上品な味。などなどB４の紙面に７か所も真ふぐの記事がメインです。味噌漬けにして一夜干しとありますから生感覚はありませんが、ついに本場の山口県まで来たかと驚きました。
アンテナを張っていれば情報は入るもので知人の水産物商社は北海道の冷凍マフグを取り扱っている。仲卸人からは自分のところは扱っていないが南風泊水産団地に入荷してミガキ加工が行われている。さらに親しい業者からは日本海産マフグということで大量に仕入れたが北海道産であった。味が悪く返品したかったが日本海産には間違いがなかったので引き取った。二度と北海道産は取り扱わない。以上のような情報がありました。私はこの２週間でマフグ５０匹を料理教室などで使用しました。これで今シーズンは終わりです。
読者皆さんのおかげで９９回、継続できました。
今回は総合市場です。下関市内には市民市場として親しまれている唐戸市場。ふく専門市場の南風泊市場。以東底引きのアンコウ、アカムツや様々な魚種が水揚げされる下関漁港市場。野菜果物を取り扱う、勝山市場。椋野の花市場と５つの市場が点在しています。私が下関唐戸魚市場（株）へ入社した昭和４３年当時は下関漁港が全盛期から少し陰りが見え始めた頃でした。それ以外の、ふく、鮮魚、青果、花はすべて唐戸市場にありました。各売場とも狭隘で市内や北九州の旺盛な需要に応えられていませんでした。北九州、特に門司や小倉からは買い出しの顧客が多かったのですが総合市場の北九州市中央卸売市場が完成した後、買い出し客はなくなりました。
下関市くらいの経済規模からいえば１か所に総合市場が立地してしかるべきです。唐戸市場の前身は明治時代、阿弥陀寺にありました。それが大正時代、唐戸周辺が闇市として発展し、昭和８年に魚菜市場として唐戸に整備されました。
下関唐戸魚市場（株）創立は戦後の昭和２５年です。唐戸市場は平成１２年、新唐戸市場となりました。下関漁港の前身は大正時代の竹崎・新地市場です。
市場の歴史をたどれば昭和４９年、まずふく部門が南風泊市場へ移転しました。関門海峡の中のふく市場では船の大型化への対応や荷役作業、大量の衛生的な加工作業に支障をきたしていました。
次に昭和５１年、唐戸の青果会社が大同合併して勝山市場に新下関青果(株)として進出しました。規模が大きかったので中央卸売市場としての整備でした。
その前後で花市場は椋野へ移転し、民間管理・経営として発足しました。唐戸市場や漁港市場は地方卸売市場です。ただし下関漁港は特３漁港と言ってわが国の拠点漁港の一つです。
少し専門的な話をすれば下関漁港市場は山口県が管理者です。よって整備は山口県が主体となって行います。唐戸市場と南風泊市場の管理者は下関市です。寿司市場として全国に有名な唐戸市場は卸売市場法の下、市内の魚屋さんが仕入れにくる市場として下関市が主体となって整備しました。南風泊市場は高度衛生化対応の市場として下関市が整備中です。要するに大家さんが県や市なのです。卸売会社は民間経営です。その卸売会社が行政から施設を借りて営業しているのです。
下関市は１市４町が合併した頃は人口３０万人いました。これだけの人口の胃袋を賄うのには業者が一か所で買い回りできる、総合市場が望まれました。
その動きは昭和５１年頃からありました。青果市場が移転した勝山に鮮魚部門の唐戸市場を移転しようとする動きでした。市長は井川さんで３期目でした。その後、市長は泉田さんに代わりました。その頃、私はまだ平社員で重要な決定に関わる身分ではありませんでしたが、三方を海に囲まれた水産下関の魚市場が山に近いところに移転するのはおかしいのではと思っていました。第一、船が入港できません。業界は推進派と反対派で割れました。結局現地建て替えに落ち着き、整備が決まったのは亀田市長時代でした。亀田市長は経歴から言っても行政事務にたけていました。その分、市役所職員や事業者に厳しく、人気の出ない市長でした。しかし、民間の意見を直接聞くという姿勢は素晴らしく、常務であった私に数回直接電話があり、唐戸市場の整備や南風泊市場の整備について話を聞かれたことがあります。市長経験者の私から見れば、職員の報告を鵜呑みにせず、自ら確認する方でした。私は尊敬していましたが残念ながら１期で落選されました。平成７年のことです。
１９９６年、平成８年１０月、下関魚市場�蠅�倒産しました。下関中央魚市場�蠅箸旅臺擦鮃気─¬詰�な規模拡大が裏目にでたのです。この事件の後、山口県下関水産振興局を中心として下関水産活性化プロジェクトが発足しました。私は卸売部会の委員でした。印象に残っているのは、下関漁港のことだけの委員会だったので、県の職員が唐戸さん（下関唐戸魚市場（株））は良いのですという言葉でした。要は下関唐戸魚市場（株）はふくで業績が良いので県としては管轄の下関漁港が心配なのですと聞こえました。行政部会で検討された管理者の統一はその後立ち消えました。下関の水産市場を何とかしなければという危機感が薄れたと思いました。魚市場役員、市議会議員、県議会議員、市長として市場政策に携わった者として、県市には市場政策が乏しいと思います。それだけ業界が複雑で改革が難しいのです。行政には理解できないと思います。
下関魚市場�蠹飮困�ら３０年近く経過しました。時代は大きく変わり小売店は激減し大型スーパーの加工拠点は下関市内には少ないです。
私は東亜大学大学院の修士論文で「企業再編法制を活用した卸売市場の総合市場への道」をまとめました。
具体的には物理的には直ぐには難しい総合市場建設の前に、各社の株式交換をしてホールディング化、持ち株会社を設立し取締役会を合同ですることです。
同じ会社なので、効率の悪い市場でのセリ等は廃止して統合化へ進むのではと考えました。それから長い時間が経過しました。多くの小売店が廃業し、市内は大型スーパーが乱立しています。鮮魚、青果等は下関市内以外の加工センターから大量に流入しています。下関市では総合市場は必要でない状況です。
私の市場統合案が活かせるとしたら卸の下関唐戸魚市場�蠅伐軸愧羆�魚市場�蠅旅臺擦任后�将来は一つの会社となるにしても、まずはホールディング化して、それぞれの市場で営業や体質を強化すべきです。本体が合併すれば傘下にある冷蔵庫や水産加工会社等を切り離し合併分割会社とするのです。両市場とも売上高は最盛期の半分以下になっていると思います。直ぐにではないにしても、県市に頼らず自らが摸索すべきでしょう。
９９回の「百話」となりました。厳しい下関ふくですが、いろいろなプラス記事もあります。４月２２日の日経新聞「なんでもランキング」で専門家が選んだ全国の水族館コンテストがありました。なんと我がまちの「海響館」が堂々の全国第二位に輝きました。有名な大規模水族館を押さえて全国に１５０か所ある中での快挙です。紹介記事の写真は「ふく」です。世界一のふく水族館が業界を応援しています。２３日の山口新聞には一面広告記事として「山口県産品」を売り込み、地元経済を支える総合商社「地域商社やまぐち(株)」の記事があり、山口県は豊かな自然に囲まれた地域で、代表的なものはフグやノドグロなどの海の幸が充実しているとあります。海響館、地域商社とも私が市長時代に職員とともに力を入れた取り組みです。
業界を取り巻く環境が厳しい中でも下関市は福岡経済圏に位置し、韓国・釜山、中国・上海とは国際フェリーで結ばれています。人工島には世界一の豪華クルーズ船が着岸できます。第二国土軸である関門海峡道路も出来そうです。中国地区の拠点都市、産業・工業が盛ん、歴史・教育・文化都市、観光が盛んで安全で快適な都市などプラス要素は沢山あります。
ふく業界では二つあるふくの組合組織がより大きな活動を展開するために大同団結する機運が盛り上がっています。
これら恵まれた資源を有効活用すれば「下関のふく」が再び自他ともに日本一と認めるようになれると信じています。
９９回にあたり業界の発展を祈ってこの回を終わります。
お知らせ。次回は１００回、最終回です。
