ふく百話（１００）
「ふくと我が人生 １０」
「人は皆山河に生まれ、抱かれ挑み、人は皆山河を信じ、和み、愛すそこに生命（いのち）をつなぎ、生命を刻む、そして、終（つい）には山河に還る。
顧みて、恥じることない、足跡を山に残したろうか、永遠の水面の光、増す夢を河に浮かべたろうか、愛する人の瞳（め）に、愛する人の目に俺の山河は美しいかと、美しいかと」作詞・小椋佳、作曲・堀内孝雄、歌手・五木ひろし
この歌は私が議員になった時からの愛唱歌です。有権者への気持ちと自分の人生を正直に生きているかと自問自答する詩（うた）です。
おかげさまで、「ふく百話」が１００回の最終回を迎えました。人は皆、二度とない大切な人生を生きています。その人生は一冊の小説が書けると言われます。
このふく百話は私の人生の縮図です。
４月２９日、南風泊市場にて第８４回下関ふく供養祭が開催されました。今年はコロナ明けということで「フルスペック」（郷田理事長）での開催です。供養祭は南風泊市場、放魚は市場岸壁、懇親会はシーモールパレスでした。郷田理事長の挨拶で印象に残ったのは市内のふく関連業界が大同団結して、事業を拡大していきたいという発言でした。卸、仲卸、加工業者だけでなく、料理、ホテル・旅館、みやげ、観光等、幅広く連携して下関ふくを盛り上げていこうというものでした。私は郷田理事長の構想が実現することを祈りました。
全国ふぐ連盟の亀井会長からは、第一回全国ふぐ料理コンテスト開催のお知らせがありました。こちらの会場は東京ですが全国でふくの取り組みが拡大することは歓迎すべきことです。
前田市長の挨拶では、ふるさと納税が順調で約１０億円となりそのうち８割がふくということです。さすが、「ふくの下関」です。
さて、２年間にわたり継続した「ふく百話」が１００回となりました。今回が最終回となります。当初は私が顧問を勤める、ふく加工会社の社員さんに「ふく」の話をお知らせすることから始まりました。
それが他の顧問先やご縁のある方、そして我が出身母体の下関唐戸魚市場（株）や仲卸人組合の皆さんにもお読みいただき、下関ふく連盟通信にも採用していただきました。光栄なことと感謝申し上げます。
私は過去、下関市長選挙に二度落選し、そのたびに大きく落胆、もがき、新たな道を模索し、めげずに活動を続けてきました。「継続は力なり」が座右の銘です。
８年間の市長在任を経て、すでに６年経過しました。苦しい思い出は昇華され懐かしく楽しい思い出として心に刻まれています。
市役所職員と取り組み、成し遂げた数々の素晴らしい仕事。これも支援者の皆様のおかげと深く感謝しています。
コロナ終息後の最近は再び多忙となり、市長時代の忙しかった日々を思い出します。大学院・大学講師、金融機関の簿記研修講師、異業種交流会の講師、企業の役員・顧問、自治会のお世話、加えて趣味の家庭菜園、夫婦での登山や小旅行、孫と遊ぶこと、美味しい酒を飲む等、充実した楽しい平穏な日々を過ごしています。
そして様々な活動のそばにはいつも「下関ふく」と「簿記会計」があります。
今はそれらを次の時代を担う若い人に伝えることが、私の残された人生の仕事だと考えています。若い学生や受講生との交流は楽しいです。
振り返ると、元気の素は南風泊市場での苦しいかった荷役の仕事や真剣勝負の「ふくのセリ人」。資格取得まで長く、鍛えられた税理士試験。選挙という厳しい関門を潜り抜けてきた覚悟の活動の市議会議員、県議会議員、市長を歴任した政治家としての責任や闘争心が身体に刻み込まれていて、それらの経験がいつも私を鼓舞しているのです。
それと人生の大きな転機は「ふくの神様」の化身と思える小野英雄（伯父）との縁であり、２１歳の時に出場したNHK青年の主張全国大会と西ドイツ１か月の海外派遣です。人生を考えさせられ、方向づけられた出来事でした。
「下関ふく」との関りは我が人生の最大の出来事です。下関唐戸魚市場（株）は今年創立７３周年を迎えます。平成２年（１９９０）に３０周年を迎えたときのことです。小野社長は３０周年記念誌とともに「ふく有情」という書籍を出版しました。著者は郷土史家の富田義弘氏です。発刊のことばの中で、小野は「ふくの業界は１０年ごとに大きな動きがある。１０年前は南風泊市場への進出、現在は養殖ふくの台頭と国際問題です。将来、１０年先、２０年先に「ふく有情」の続編を刊行することがあるならば、業界はどのように変わっているだろうかと考えつつ、この書を出版する」と結んでいます。
あれから４０年が経過します。下関唐戸魚市場（株）は節目に記念誌を発行してきましたが「ふく百話」のようなまとめは業界の中ではありませんでした。
今回私が執筆した「元下関市長のふく百話」が業界の記録になるかどうかは関係の皆さんの判断に委ねたいと思います。
最後に家族のことを少し紹介します。
父親は今年１７回忌を迎えました。戦後の一番景気の良かった下関の水産業界へ身を置き、いつも私を見守ってくれました。小野英雄とは義兄弟です。
母親は昭和２年生まれの９６歳、施設に入居し認知症がありますが私のことはわかります。兄弟４人の中で一番心配をかけたこと、部屋に市長選挙のポスターを貼ってあることなどからでしょう。施設に入居した母の家を片づけました。「ふく」に関連する、器、グッズ、調度品、絵画等、何百とありました。私がふく業界に身を置いていたからです。
私の子供は息子三人です。それぞれ家庭を持ちささやかですが仕事で社会への責任を果たし幸せな生活を過ごしています。孫は３人います。７歳女子、４歳男子、２歳女子です。家族の生活が成り立ったのは下関ふくのおかげです。
年末恒例行事は１２月３１日のふく刺しです。正月の間もふく刺しは出てきますが、年の終わりを家族で祝うふく刺しは格別です。私が南風泊市場に勤務してからの恒例行事です。昨年末のことです、７歳の孫の日咲（ひなた）がそれまで見向きもしなかった「ふく刺し」を猛然と食べ始めました。大皿のふく刺しに横から箸をいれ、ザクと取り、ポン酢に少し浸ける、通の食べ方なのです。
これには祖父も親もびっくり。「日咲、たくさん食べてよいけど、ゆっくり、そしてご飯も一緒に食べなさい」と注意することとなりました。孫はそれに答えて、「だって美味しんだもの」です。ふく刺しは生ものであり今まで親も積極的には勧めませんでしたが、ふく刺しの味は格別のようです。それ以来、日咲がくればいつも我が家自慢の有田焼大皿、出雲の刀包丁で作った「ふく刺し」です。あと何十回できるかわかりませんが我が家だからできる、ふく体験です。４歳の旭陽（あさひ）、２歳の心春（こはる）が続くことを願います。妻の香代子は皆が来ると張り切って接待しますが、その後は疲れが出ます。
しかし夫婦とも心地よい疲れです。その妻にはずいぶん苦労をかけました。
特に政治家への道に踏み出したことは想定外で慣れないことの連続でした。
市長選挙落選等の出来事は「何も良いことはなかった」というのが正直な言葉でしょう。市長在任の８年間、親の面倒も見てくれました。それと毎日の弁当と時々「飲みすぎ」とチェックの入る健康管理のおかげで市長職を全うできました。
この「ふく百話」執筆も応援してくれました。私が今あるのは半分は妻の功績です。この場を借りて感謝の気持ちを伝えます。
終わりにあたり「ふく百話」を下関ふく連盟通信に採用していただいた郷田会長、顧問の仕事として「ふく百話」執筆を応援して頂いた�蠧�フーズ、青木社長に紙面を借りてお礼を申し上げます。
「下関ふくは永遠に日本一です」と宣言して「ふく百話」を終わります。
長い間ご愛読いただき誠にありがとうございました。
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