ふく百話（９８）
「フグ水揚げ日本一は北海道」
４月１０日の山口新聞に北海道でのフグ漁獲量が急増しているという記事が紹介されました。２０１０年に８４トンだった水揚げが２１年は２０倍以上になったのです。断トツの全国一位です。魚種はマフグです。
昔から北海道でマフグが漁獲されていましたが、近年の漁獲量は驚異的です。道内ではあまり食べる習慣がなく、徐毒処理も難しいことから廃棄処分となることが多かったようです。最近、関係者がこれではもったいないと、付加価値を高めるため模索を続けています。漁業生産者の話では「海水温上昇の影響なのか、これまで主に漁獲していたホッケとマガレイはどんどん沖に行き、代わりに３年ほど前からマフグがかかるようになった」ということです。
農林水産省の統計調査によればトラフグやマフグ、サバフグ等の「フグ類」の２０２１年の全国漁獲量は６１７２トン、そのうち北海道が１位で１９９０トン、２位が石川県で５４７トン、３位が愛知県で４０２トンとなっています。
北海道水産試験場によるとマフグの適度な海水温は１８〜２４度とされる。
担当者はマフグの増加理由を「温暖化で生息域がオホーツク海まで広がっている可能性がある」と説明する。以上、山口新聞の記事の要約です。
同日のNHKニュースでは福島県のトラフグが取り上げられました。映像を見ると３〜５キロもある立派な天然トラフグです。これが大量に漁獲されているというのです。資源調査等、魚体に測定器をつけて本格的でした。今年２月９日のふくの日祭りには福島県から視察がありました。ミガキ加工に苦慮していること、除毒後の有毒部位の処分にも困っているという話をお聞きしました。
さらに４月１１日の日経新聞には特集で「春の魚介 卸値高騰」の記事がありました。例としてホタルイカ、サワラ、カツオが挙げられています。昨年比２倍から１５％高です。原因として日本近海の水温上昇や海流変化による不安定な水揚げが一因。価格上昇が続く中、コロナ禍からの経済回復で業務需要が増えており買い手の「値上げ慣れ」を指摘する声もある。
サワラは国内だけでなく米国、中国、香港などで認知が広がり、海外需要が伸びている。カツオは入荷が順調なのに卸値が前期より１９％高い（東京、豊洲市場）状況です。このように温暖化による漁獲増加の中で「北海道のマフグ」のみがいつまでも価値のないものとしてほっておかれるはずはありません。
これらのニュースに接し、ふく業界に地殻変動が起きていると思いました。
南風泊市場の年間取扱数量は天然トラフグ、養殖トラフグ、マフグ、サバフグ等を含めて約２千トンだと思います。それに匹敵する数量が北海道で水揚げされているのです。そして取り扱いに苦慮しているようです。漁場はオホーツク海側だということです。私の調査でも２０１９年は全国で４９５６トンの天然物漁獲があり、そのうち北海道は７４７トンで全体の１５％です。
なお山口県は２７６トンで５，６％。２０２０年は北海道で９２７トンの水揚げがあり激増しています。今回の山口新聞の記事を見れば、下関市民は「下関のふく」は大丈夫だろうかと不安になります。
これらの状況の中でOBとして提案です。下関の業界として情報収集、集荷対策等、いろいろと手を尽くされていることと思いますが、元下関唐戸魚市場（株）社長、小野英雄の遺言に「守るより攻めろ」という言葉があります。
自らの軍隊経験から学んだと生前、我々に語っていました。私の提案は、北海道や福島に下関の業界として進出すべきです。これは過去に例のあることですが、カモンワーフは業界の共同出資で設立しました。
卸・仲卸が共同出資して新会社を作り、その会社が北海道や福島で地元漁業協同組合や卸売会社と資本を出し合い加工工場を経営するのです。現地加工したものは現地の冷蔵庫に保管し消費地へ出荷するのです。下関へ輸送していては輸送コストがかかりすぎます。北海道の場合、マフグというトラフグでないことはありますが、これだけ大量に水揚げされれば、業界へ影響が大きいと思います。下関の技術力を持ってすれば、安全な徐毒処理、早い加工力、きれいな仕上がりとその後の保管・管理など、現在行っている作業を現地で行うのみです。
下関の業界、現地の業界、人材雇用等地元経済への貢献も期待できます。
三方が得する取り組みだと考えます。フグが沢山水揚げされる場所に下関の業界の息がかかった加工センターを建設するのです。
併せてもう一つの提案があります。それは東京など大消費地に下関の集荷・販売センターを設置することです。これも現地の卸売会社などとの共同会社が望まれます。関係者が共に勝つのが目的です。東京の会社は商社機能を持って、全国からの情報収集等を行って下関の業界へ貢献することが目的です。
もう１件、養殖ふく取扱いについて提案です。国の最新資料（２０１９年）によると養殖フグの全国生産量は３８２４トン、そのうち長崎県４７、１％、熊本県１６，７％、大分県７、４％、佐賀県７％と全国の約８０％が九州産です。
南風泊市場にどれくらい集荷されているか毎年の状況は変わりますが、５０％の集荷はしていないでしょう。私の提案は九州から関門橋を通過する活魚輸送車をすべて南風泊市場へ向かわせることです。
現在準備が進んでいる第二関門橋は新たな国土軸の形成です。この道路は彦島を通過します。海峡から福浦港周辺に上がってきます。九州からのアクセス、南風泊市場から中国道への接続もできるでしょうから関西、関東への出荷は便利になります。私が市長の時、毎年この道路の陳情要望に行きました。今の調査を見ていればこの道路は近いうちに着工になると思います。
活魚で輸送すればコストがかかり、消費地での加工は除毒、血水、有毒部位の処分等、大変です。南風泊市場でミガキ加工すれば重量は６０％くらいになりますし、海水を運ぶロスも省けます。南風泊には大規模活魚水槽を備えた新魚市場が建設中です。畜養水面（沖合に伸びる岸壁の中を海水が通過できる仕組み）もあります。巨大イカダでも大量保管が可能です。
それを日本一のミガキ加工力を持つ技術集団が行えばすごい加工となります。
ただし、私が考えるのは相場でふくを売買するのがメインでなく、ミガキ加工賃を全国のどこよりも安く設定して下関の魅力を高めることです。安い、早い、きれいな日本一の加工力、出荷と保管機能の完備している西日本一番の南風泊水産加工団地を活用すべきです。コストを下げても利益を減らさない為には仲卸人の共同作業が必要です。現在のように１社ごとに職人を抱え、ミガキ、皮すき（トラフグのとげを除く作業）、刺身加工、全国宅配便発送などを行うのでなく、それぞれの作業を専門とする仲卸人に特化するのです。それには互いの株式を交換する仕組み、現在世界中で行われている企業結合、持ち株会社によるホールディング化です。各店は合併しますが、店自体は存続することができ社長もそのままです。業界として運命共同体組織となるのです。まずは有志企業から初めてはいかがでしょうか。ホールディングなら資金融資は一本化、資材は共同仕入れで値引き、給与計算、税務申告も一本化できます。
現在は卸売会社が商社となり仲卸人のような事業を展開したり、仲卸人が卸売市場と同じような営業行為を行ったりと、両者の垣根が低くなっています。
これは全国的な傾向で、市場外流通も大幅に増加している状況を見ると、卸・仲卸という関係が卸売市場法によって今後どこまで保護されるか不透明です。
むしろこの法律に頼らず、自らリスクを負って企業活動を行っている業者が伸びていると思います。
業界を取り巻く様々な事情はあるでしょうが、昔に例があるように江戸時代、北前船で大阪と賑わいを二分した下関が帆船から蒸気船、陸上交通への変化に乗り遅れ、往時の賑わいは歴史に残るのみです。近年では、日本一の水揚げを誇った下関漁港が漁場の変遷や交通網の整備により衰退しました。下関魚市場�蠅賄飮困形換颪硫掲篁埔譴坊秧未�走りました。
南風泊市場も例外ではありません。天然トラフグ日本一、全国の８０％の集荷を誇るとメディアで放送されても、実態はそうではない。下関はすでにプライスリーダーではないということは業界人が一番感じていることでしょう。
今回の提案がどのように生かされるかわかりませんが、業界の対応を責めているのではありません。将来に続く、若い人々のためにも、下関市の経済発展のためにも取り組みを願っています。「下関ふく」は永遠に日本一でなければならないのです。OBの意見が役立てば幸いです。
