ふく百話(19)
「ふく延縄船出港式」
ふく延縄(はえなわ)船出港式が南風泊市場にて行われました。下関の秋の風物詩、ふくシーズンの開幕です。養殖ふくがほとんどの今の時代にあってもふく延縄船の出港ニュースを見ると今年もいよいよ、ふくの季節が到来したなと思います。ふく延縄漁業解禁は9月1日です。恒例のトラフグの稚魚2千匹を積み込み、沖合で放流します。関係者の話では今年は気象の影響で沖合水温が例年より3度低く、早い時期からトラフグの漁獲が期待できるようです。
私も南風泊市場時代には何十回となく立ち会いました。ニュースで見る山口県延縄協議会の吉村会長は相変らずお元気で活躍中です。初セリは9月下旬です。
南風泊市場がふく専門の市場で全国唯一ということで、節目節目でニュースに取りあげられ、ありがたいことです。9月は出港式、秋のふく祭り、9月の初競り、年末最盛期、1月4日の初セリ、2月のふくの日祭り、4月のふく供養祭等々、行事のたびに本場下関ふくが取り上げられます。私たちがセリ人時代、全国から時には海外からも取材があり、煩わしくなるほどの取材攻勢でした。
小野元社長もNHKだけで十分だという時代もありました。特にセリでふくを買われる仲卸人からすれば「邪魔」になるようなこともありました。いまでは
考えられないくらい無料で全国宣伝が引っ張りだこの時代でした。
最近の漁場は山口県沖の見島から長崎県対馬にかけてです。30年前の全盛期は、遠く韓国済州島西沖、中国黄海沿岸、北朝鮮との境、38度線まで決死の覚悟で出漁していました。1か月もの長い航海を風呂も入らず、もちろん散髪はありません。命がけの操業でした。海難事故や国内船、外国船との海上トラブルもよくありました。松生丸事件というのがあり、佐賀県の船が北朝鮮軍艦から銃撃を受け船員が死亡した痛ましい事件です。小野元社長はこの事件を受け、業界関係者と社会党の代議士とともに国交のない北朝鮮に中国経由で入国し関係改善を図りました。その後、事件の船の船長が北朝鮮に技術指導に行ったこともありました。全盛期は50トンクラスの大きな船だけでも萩市越ケ浜、大井湊、阿武町奈古漁協、北浦船団等100隻以上、同じ漁法のアマダイを主体とした萩市玉江港を入れると200隻くらいになったと思います。下関漁港、山口県漁連前からの出港式は盛大でした。天然物100%、南風泊市場のふくで全国の関係者が潤った良き時代でした。帰港地は南風泊市場が断トツでしたが、時々福岡市場、長崎市場へも入港しました。近年のふく延縄船では西日本一後継者の多い、福岡県宗像市鐘崎漁港の元気が良いです。ふく以外の魚は福岡魚市場ですが、「ふく」だけは少し距離が遠い県外の下関へ出荷しています。ありがたいことです。